イルミナティカードとアーリア主義 その4【ヴリル】

ヴリルとヴリル協会

エドワード・ブルワー・リットン

𒉡画像引用 Wikipedia

ヘレナ・P・ブラヴァツキー(左)

ウィリアム・スコット=エリオット(右)

𒉡画像引用 Wikipedia、Atlantipedia

ウィリー・レイ

 ウィリー・レイは、1937年にドイツからアメリカに移住した著作家(科学ライター)です。

 

𒉡画像引用 Wikipedia

パンフレット『Vril』の表紙

 画像は、ヴァイマル時代末期のベルリンにおいて、小さな出版社『Astrologische Verlag Wilhelm Becker〈注8〉』より刊行されたパンフレット『"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis(”ヴリル”  宇宙の根源的な力・アトランティスの復活)』の表紙です。 

 

 このタイトルを見ると、なんとなく、現代におけるトンデモ本のようなニオイを感じてしまいます……。

 

𒉡画像引用 Wikipedia(Datei:Vril Urkraft Einband.jpg

ジャック・ベルジェ(左)

ルイ・パウエルス(右)

 画像は、ナチス神話に大きな影響を与えた『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』の著者たちです。

 『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』では、暗号史UFO学ナチスのオカルト錬金術神秘思想・ナチスの秘密兵器などのテーマを取り上げ――多分に与太話的な要素を含みながらも――陰謀論マニアの間でしばしば参照されています。

 

 彼らの著書に起因して、(別の作家たちにより)『マリア・オルシックの神話〈注9〉』も創作されたのですが、その話については以下の記事をご参照ください。

𒅆ヴリルの巫女――マリア・オルシックの神話

 

𒉡画像引用 goodreads、editionsethos

 イルミナティカードにも取り上げられた『トゥーレ協会』〈注1〉――そのトゥーレ協会と関係があるといわれる『ヴリル協会(ドイツ語:Vril-Gesellschaft/英語:Vril Society)』は、『ヴリル(vril)』と呼ばれる超常的なエネルギーを研究していた秘密結社だといわれています。

 ナチスが台頭した時代において、これらには如何なる意味があったのでしょうか……?

 

 ということで、(前回でも述べた通り)今回はヴリルに纏わる話から始めたいと思います。

 ヴリルの元ネタは、『エドワード・ブルワー=リットン(Edward Bulwer-Lytton)』の小説『来るべき種族(The Coming Race)〈注2〉/1871年刊行』に登場する(同名の)神秘的なエネルギーです。

 ヴリルは万能のエネルギー〈注3〉であり、テレパシー念力になるだけでなく、あらゆる生物・無生物に影響を与え、治癒・死者の蘇生・破壊の力にもなり得る――というのが作中の設定でした。

 

 『来るべき種族(The Coming Race)』について、常識的な評論家は(当時の)社会を風刺した作品として解釈しましたが、一部の人々は、この小説をオカルト的な真実に基づくものだと思ったそうです。

 その結果――

 

「ブルワー=リットンは『薔薇十字団(オカルト的な秘密結社)』のメンバーであり、ヴリルは実在する根源的なエネルギーである」

「小説『来るべき種族(The Coming Race)』は、ブルワー・リットンが匿名を装って読者に秘密の知識を伝えようとした作品である」

※『来るべき種族』は、最初は匿名で出版されました。

 

――という説まで語られるようになったのです。

 このように解釈した人々には『ヘレナ・P・ブラヴァツキー(Helena Petrovna Blavatsky)』『ウィリアム・スコット=エリオット(William Scott-Elliot)』『ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)』などの神智学者たちもいました。

 

 ブラヴァツキーの著書では、アトランティス人がヴリルの力を使い熟したこと〈注4〉が記されていました。

 また、スコット=エリオットは(その著書)『アトランティスと失われたレムリアの物語(The Story of Atlantis & The Lost Lemuria)』において、アトランティス人の航空機はヴリルが動力源であると言及しました。

 19世紀末から1930年代までの西洋社会では神秘主義が流行し、神智学も広まっていた時代でした。

 故に、ドイツのオカルト界隈でも――1920年代までには――上記のように解釈されたヴリルの概念も知られるようになったのです。

 

 当時の社会においてこのような背景はあるものの、実は(ナチス神話に見られるような)ヴリルについて研究する秘密結社が存在したという歴史的な証拠はありません――故に、その秘密結社が何か歴史的な業績を残したという証拠もないのです。

 ただ、第2次世界大戦が起こる以前(ヴァイマル時代末期)のベルリンにおいて、ある私的な団体のメンバーがヴリルのことを探究していたようです。

 この団体の存在を証明する数少ない資料が、後の『ヴリルの伝説』を生み出す大きな要因となりました。

 

 その1つが、科学ライターの『ウィリー・レイ(Willy Ley)』が、1947年にアメリカのSF雑誌『アスタウンディング・サイエンス・フィクション(the magazine Astounding Science Fiction)』にて発表した記事――タイトルは『ナチス帝国の疑似科学(Pseudoscience in Naziland)』――です。

 

 レイによると、当時のドイツでは非合理的な考え方が流行し、数百といわれるほどの様々な疑似科学の団体やオカルト結社が存在していたそうです。

 そうした団体の1つが『真実のための協会/〈あるいは〉真理協会(Wahrheitsgesellschaft)』と称し、(空いた時間で?)ヴリルのことを探究し、雑誌も出版していたとか。 

※この団体の名称は、なんとなく某宗教団体を連想させるかも――と考えてしまうのは、ブログ主だけでしょうか……。

 

 また、1930年には『Weltdynamismus(英語的に言うと”ワールドダイナミズム”という意味)』と『"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis(”ヴリル”  宇宙の根源的な力・アトランティスの復活)』〈注5〉という2つのパンフレットが刊行されました。

 これは(『真実のための協会』と同じグループだった可能性がある)『Reichsarbeitsgemeinschaft "Das kommende Deutschland"(帝国軍人会 ”来るべきドイツ”)/略称:RAG』と称する団体が制作しました。

 

 当時のオカルト界隈では、こうしたヴリルに関する情報は、短期的・限定的な影響しかなかったようです。

 1930年以降におけるRAGの存続や他の団等への影響を示す記録はなく、ヴリルについて語った上記のパンフレットがナチスの要人に影響を与えたという証拠もありません。

 ということは、(当時のドイツにおいて)ヴリルを探究していた者たちの実態としては、社会的影響力が皆無に等しい弱小カルト団体のようなものだった可能性も考えられるでしょう。

 

 しかし、ウィリー・レイの記事を参照した2人のフランス人作家により、この団体は、実像とはかなり異なった秘密結社として紹介されることになりました

 その作家たち――『ジャック・ベルジェ( Jacques Bergier)』と『ルイ・ポーウェル(Louis Pauwels)』――の著書The Morning of the Magicians(魔術師の朝)/フランス語の原題:Le Matin des magiciens/邦訳:神秘学大全/初版:1960年』において、初めて(力のある秘密結社としての)ヴリル協会という存在が主張されたのです。

 

 『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』の記述によると、ヴリル協会は、神智学協会薔薇十字団、そしてトゥーレ協会とも密接な関係があるナチスにとっての重要な組織とされています。

※イルミナティカード『The Thule Group(トゥーレ協会)』において、ヴリル(神秘的エネルギー)を操るような魔術師が描かれたのも、大元を辿れば、この本が原因でしょう。

 

 『The Morning of the Magicians(魔術師の朝)』は、1960年代に広まったカウンターカルチャーの『原典』の1つとなり、ナチスが政権を獲得する過程でオカルトの力を利用したという(不正確ではあるものの)影響力のある話を紹介するうえで、大きな役割を果たしました。

 

 実質的にはオカルト同好会に過ぎなかった(かもしれない)団体(?)が、世界の運命を左右するような秘密結社にまで成長したことには苦笑いが漏れそうですが、これがネオナチにまで影響を与えている事実については、余り笑えないでしょう。

 というのも、ネオナチ系のオカルト結社において、ヴリルは『ナチスのUFO〈注6〉』や『黒い太陽(オカルト的な象徴)』と結びつけられ、その『神話(ナチスに纏わるオカルト話)』が積極的に広められている〈注7〉からです。

※しかも、その神話を真に受ける者たちを増やしているようです(かくいうブログ主も、よく調べるまではちょっと信じていました)。

 

 ナチスには余り(あるいは全く)影響を与えなかったと思われるヴリルの思想が、むしろ(それよりも新しい)ネオナチの方で利用されているとしたら――

 

 ヒトラーの魔法使いはまだ生きている。

 それどころか、彼らの一部は若返っている...…

 

――というイルミティカード『The Thule Group(トゥーレ協会)』に書かれた文にも、説得力があるのかもしれません(皮肉的な意味合いとなりますが)。

 現代におけるヴリルの魔術師たちは、今後も様々な宣伝…………いえ、魔法を見せてくれるのでしょうか……?


The Thule Group

𒉡画像引用 STEVE JACKSON GAMES

【注釈 1~9】

 

■注1 イルミナティカードにも取り上げられている『トゥーレ協会』

 イルミナティカードにおける上記のカードの名称は『The Thule Group』となっている〈上の画像を参照〉。

 

■注2 来るべき種族(The Coming Race)

 この小説におけるヴリルに纏わる話は以下の通り。

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 小説の語り手は『ヴリル・ヤ』と呼ばれる地底人の種族に出会った。

 『ヴリル・ヤ』は、人類を遥かに凌ぐ超常的な生命エネルギー『ヴリル』を有していた。

 ヴリルの力はテレパシーや念力となり、あらゆる生物・無生物に影響を与え、治癒・死者の蘇生・破壊を行うことも可能とした。

 元々『ヴリル・ヤ』は地表に住んでいたが、天災によって人類と切り離され、洞窟を通って地下世界に新たな住処を見つけた。

 そこで戦争と混乱に満ちた歴史を紡ぐさなか、彼らはヴリルを発見・活用し、他のどの民族よりも高度な優生学に基づく平等な社会を実現した。

 『ヴリル・ヤ』は、小説の語り手と接触することで地上のことを知り、人間社会について関心を抱いた。

 物語の終盤において、語り手は『ヴリル・ヤ』の領域から脱出し、『ヴリル・ヤ』が地上に戻ってきたら、人類に危険が及ぶと読者に警告した。 

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 なお、『来るべき種族』のあらすじについては各ブログ・サイトで紹介されているので、それを知りたいという方は検索してみては如何だろうか。

 

■注3 ヴリルは万能のエネルギー

 エドワード・ブルワー=リットンは、単なる思いつきでヴリルの設定を考えたわけではなかったようだ。

 当時は動物磁気説やオカルト的なエネルギー(エーテルなど)への関心が高かったため、そうした背景を踏まえ、彼はヴリルについての着想を深めていったといわれている。

 

■注4 アトランティス人がヴリルの力を使い熟したこと

 1877年に刊行されたブラヴァツキーの最初の著書『ヴェールを剥がれたイシス(Isis Unveiled)』において、ヴリルは現実に作用するエネルギーとして描かれた。

 1888年に刊行された2冊目の著書『シークレット・ドクトリン(The Secret Doctrine)』では、アトランティス人がヴリルを使って巨大な建造物を造ったと言及された。

 また、アトランティスが滅んだ後、生き残った少数の神官たちがこの知識を保持し、選ばれた者たちだけに伝えたという。

 彼女の著書によると、この霊的なエネルギーは自然界の支配をも可能にすると考えられている。

 

■注5 『Weltdynamismus』と

    『"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis(”ヴリル” 宇宙の根源的な力・アトランティスの復活)』

 『Reichsarbeitsgemeinschaft "Das kommende Deutschland"(帝国軍人会:来るべきドイツ)/略称:RAG』が制作した上記のパンフレットは、オーストリア疑似科学者(詐欺師)『カール・シャペラー(Karl Schappeller)』が発明したとされる永久機関を宣伝するものであり、その構成と内容は、1928年に2人のオーストリア人作家によって書かれたパンフレットとほぼ同じだったようだ。

 

 パンフレットにおいて、RAGは「ヴリルの力を利用するための技術を持っている」と主張した。

 パンフレットの内容としては、シャペラーが説く機械の改造版という印象であり、その機能は科学的な論理ではなく、オカルト的な論理で語られていた。

 あるページでは、『半分に切ったリンゴのイメージ』が地球の構造と宇宙の力の繋がりを示すモデルとして、断面で表現されていたという。

※現代的に言えば、上記の話は疑似科学やスピリチュアルにおいてしばしば主張される『トーラス構造』と同類であり、こちらでもリンゴの例えが用いられている〈★参考サイト〉。

 

 このパンフレットの著者である『ヨハネス・テューファー(Johannes Täufer)』――名前の意味は『洗礼者ヨハネ』であり、RAGの設立者と見なされている人物――は、オカルト系の雑誌・書籍の編集者にして出版社を設立した『オットー・ヴィルヘルム・バルト(Otto Wilhelm Barth)/生没年:1882年9月15日~1930年以降に没』ではないかといわれている。

 

 なお、1924年にバルトと『フリッツ・ヴェルレ(Fritz Werle)/生没年:1899年~1977年』が設立した『Otto Wilhelm Barth Verlag(オットー・ヴィルヘルム・バルト出版社)』は、現在(2022年8月時点)も存在している。

 設立当初のオットー・ヴィルヘルム・バルト出版社は(ヴェルレの方針により)主に占星術境界科学オカルト魔術などを取り扱っていた。

 

■注6 ナチスのUFO

 陰謀論には、ナチスがUFOを開発しており、それを担当していたのがヴリル協会だったという話がある。

 また、ヴリル協会とは別に、ナチス親衛隊(SS)の内部に設置された『E4』という部門も、UFO開発を担っていたとか。

 ヴリル協会が開発したUFOは7種類・17機があり、そのコードネームには『ヴリル』という名称が与えられたという(E4が開発したUFOのコードネームは『ハウニヴー』)。

 

 「それだけの技術力があるなら、連合国に負けていなかったのでは?」――というツッコミはしない方が、この種の話は楽しめるだろう。

  

■注7 その話が積極的に広められている

 イギリスの歴史学者・エクセター大学の西洋秘教の教授『ニコラス・グドリック=クラーク(Nicholas Goodrick-Clarke)』によると、第2次世界大戦後『ウィーン・サークル(Wiener Zirkels)』と言及されるグループが『オカルト的なネオ・ナチズム』を展開し、ヴリルについて新しいイメージを普及させたという。

 このグループの著作では、ヴリルは『ナチスのUFO』や『黒い太陽(オカルト的な象徴)』と関連づけられている。

 そして、ウィーン・サークルの活動を引き継ぎ、一般的に知られたヴリルの観念を広めたのが、オカルト結社『テンペルホーフ協会(Tempelhofgesellschaft )』の作家たちだったと、ドイツの宗教学者『ジュリアン・ストゥルーベ(Julian Strube)』は述べている。

 その成果なのかどうか、ヴリルはネオナチ界隈だけではなく、映画・ドラマ・ゲームなどの娯楽の世界にまで『進出』することになった。 

 

■注8 Astrologische Verlag Wilhelm Becker

 『Astrologische Verlag Wilhelm Becker』――名前の意味は『占星術出版社ヴィルヘルムベッカー』――は、ドイツの占星術師『ヴィルヘルム・ベッカー(Wilhelm Becker)』が設立した(占星術などを取り扱うオカルト系)出版社。

 ベッカーが自身の名前を冠したこの出版社は、1930年代後半まで存続した。

 

■注9 マリア・オルシックの神話

 『マリア・オルシック(Maria Orsic)』は、ヴリル協会の霊媒師にして同協会の創設者の1人といわれている人物。

  オルシックはアルデバラン星系の住人と交信し、ヴリルを用いた高度な技術を伝えたとされているが、彼女の話はネオナチ系のオカルト結社『テンペルホーフ協会(Tempelhofgesellschaft )』に所属していた作家の創作であり、ナチス時代のドイツにおいて、マリア・オルシック(および彼女に相当するような女性)が実在した記録はない。

※そもそも、ヴリルの霊媒師について語る以前に、ヴリル協会の話自体も(ほぼ)創作である。

神秘のトゥーレ

 画像は『オエラ・リンダの書』の一部(48ページ)。

 

𒉡画像引用 Wikipedia

オエラ・リンダの書

アトランティス文明(イメージ図)

𒉡画像引用 Life-Plorer

チャクラ

 ヒンドゥー教のヨーガでは、人体には7つの『チャクラ(エネルギーセンター)』があると考えられています。

 神智学によると、アトランティス人はこの類の修行で開発されるような(?)超常的な能力を持っていたとされています。 

 

 ちなみに、(神智学版の)アトランティスには『オーム/オーンサンスクリット語:ओम्:om/ॐ:oṃ)』――インドの諸宗教において神聖視される呪文――に相当する言葉もあり、それが『タウ(tau)』になるとのことです。 

 

 おそらく、神智学の創始者の1人であるブラヴァツキーがインドの宗教・哲学に傾倒していた――それが元々のアーリア人の宗教・思想(に近い)と思っていた――ため、(ブラヴァツキー本人かその影響を受けた人々により)上記のような呪術的設定が考えられたと思われます。

 

𒉡画像引用 Wikipedia

 トゥーレ協会の名称の由来である『トゥーレ〈注10〉』とは、古代ギリシアローマの文学や地図などに登場する最北端の地名です。

 これについて最初に言及したのは古代ギリシアの探検家『ピュテアス』とされ、以後、複数の識者によってこの地のことが記されました。

 この記事において重要なのは、アーリア主義(アーリア人種至上主義)におけるトゥーレの解釈です。

 

 ナチスの神秘主義者たちは、トゥーレや『ヒュペルボレイオス(Hyperboreoi)/英語:ハイパーボリア(Hyperborea)』が、アーリア人の起源だと信じていたそうです。

 この話の発端は、1860年代から知られるようになった古フリジア語の手稿『オエラ・リンダの書(Oera Linda Book)』です。

 その内容としては、紀元前2194年から紀元803年までの古代ヨーロッパの歴史・神話・宗教が記されています。

 この書物は、いわゆる『偽書』でしたが、『ルネ・ゲノン(René Jean Marie Joseph Guénon)/フランスの思想家』のような当時の識者たちも、その一説を信じていたそうです。

 

 ウィーンの心理学者『ウィルフリード・ダイム(Wilfried Daim)〈注11〉』の著書『ヒトラーにアイデアを与えた男(Der Mann, der Hitler die Ideen gab)』によると、トゥーレ協会では以下のようなことが信じられていたとか。

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●トゥーレ協会の名は、神話のトゥーレ――つまり消滅した『北欧のアトランティス』に由来する。

※トゥーレ協会では、アトランティスの場所はトゥーレとされていた。

 

●トゥーレに住む超人的な民族は、霊的な力を通じて宇宙と繋がっていた。

 

●彼らは20世紀をはるかに上回る精神的・技術的能力を持っていた。

 この知識をもって祖国を救い、新たな北欧のアーリア的・アトランティス的な民族を生み出さなければならない。

 (そのために)新しい救世主が現われて、人々を目的地へと導くだろう。

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 これらの着想は、多分に神智学の影響を受けているのは間違いないと思われます。

 アトランティス人は、テレパシー能力が発達しているうえに『ヴリル(神秘的エネルギー)』を操る魔術師であり、この力を以て高度な文明を築いた人々である――と、神智学では説明されているからです。

 

 トゥーレ協会の熱心な会員たちは、自分たちが失われたアトランティス文明の精霊によってその叡智を伝授されたと思い込んでいたので、上記のような「超人的アーリア人を誕生させる」という夢想に(どこまで本気かはともかく)酔っていたといわれています。

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※上記の背景を考えると、トゥーレ協会の中にヴリルについて探求するグループ(ヴリル同好会?)はあったかもしれません。

 そして、その可能性から想像を広げて(前章で述べた『真実のための協会』や『RAG』の話と組み合わせたうえで)『秘密結社としてのヴリル協会』が創作されたことについては、考えられなくもないです。

 ただし、トゥーレ協会の思想はナチスの政策に(ほぼ)影響を与えなかったので、仮に上記のグループが存在したとしてもナチスに関わることはなかったでしょう。

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 神智学が説くヴリルとは、インド(ヒンドゥー教ヨーガ)では『プラーナ』、チベット仏教では『ルン(風)』、陰陽五行などの中国思想では『』、西洋の秘教では『エーテル』に相当します。

 上記の神秘主義には、修行によってヴリルのようなエネルギーを操り、自身を仏陀アデプトのような超人的存在に高めようとする発想が見られることは事実です〈参考記事:密教の瞑想法――五字厳身観〉。

 ただ、概して個人主義的なこの思想について、人種主義民族主義と組み合わせて解釈してしまったのが、(トゥーレ協会などに代表される)当時のオカルティズムに見られた特徴の1つでした。

 

 『その2(章:アーリア人という概念)』の記事でも言及した通り、アトランティスやトゥーレなどのオカルティックな話は、(19世紀末~20世紀前半の頃は)アーリア主義と結びついていました。

 このような発想は、急激に(そして中途半端に)進歩した科学と、それに対抗して進化した(?)オカルトが混在していた時代の妄想――と言ってしまえばそれまでですが、陰謀論的には、『前時代のオカルト話』という言い方で切り捨てることはできないかもしれません。

 というのも、陰謀論動画『アングロサクソン・ミッション』にも、アトランティスの話が言及されているからです。

 

 ということで、 次回は現代におけるアーリア主義系の陰謀論と交え、太古の謎に迫っていきたいと思います。


【注釈 10~11】

 

■注10 トゥーレ

 『トゥーレ(ギリシャ語:Θούλη/ラテン語:Thūlē/英語:Thule)』は、古代ギリシア・ローマの文学や地図などに登場する最北端の地名である。

 現代では、スコットランド北部のオークニー諸島シェトランド諸島エストニアサーレマー島ノルウェースモーラ島などが解釈の対象となっている。

 中世の地誌における『ウルティマ・トゥーレ』――ラテン語で『最果てのトゥーレ』という意味――は、既知の世界の境界を越えた遠方の場所という比喩的な意味を持つようになった。

 

■注11 ウィルフリード・ダイム(Wilfried Daim)

 『ウィルフリード・ダイム(Wilfried Daim)/生没年:1923年7月21日~2016年12月』は、オーストリアの心理学者・心理療法士・作家であり、アートコレクターとしても知られている。

 

 1940年から1945年にかけて、ダイムはオーストリアのカトリック系レジスタンスとして活動した。

 1956年、彼はウィーンで私立政治心理学研究所を設立した。

 

 ダイムは心理学や信仰をテーマにした本を数多く刊行したが、『ヒトラーにアイデアを与えた男(Der Mann, der Hitler die Ideen gab/The man, who gave Hitler the Ideas)』が最も有名である。

 これは、アドルフ・ヒトラーの思想的先駆者といわれている人物にして『アリオゾフィ(アーリアの知恵/叡智)』を主張した1人であるアーリア主義者『アドルフ・ヨーゼフ・ランツ(Adolf Josef Lanz)』――自称:イェルク・ランツ・フォン・リーベンフェルス(Jörg Lanz von Liebenfels)――の伝記である。

 この著書では、ランツ・フォン・リーベンフェルスとアドルフ・ヒトラーの関係が立証されている。

 

 本書は1957年に初版が発行され、ドイツ語版で多くの版と2度の改訂がなされたが、英語には一度も翻訳されたことがない。

参考・引用

■参考文献

●来るべき種族 エドワード・ブルワー=リットン 著 小澤正人 翻訳 月曜社

●"Vril" Die kosmische Urkraft・Wiedergeburt von Atlantis Johannes Täufer 著

●神秘学大全 ルイ・ポーウェル 著 ジャック・ベルジェ 著 伊東守男 翻訳 サイマル出版会

●シークレット・ドクトリンを読む ヘレナ・P・ブラヴァツキー 著 東条真人 翻訳 トランス・ヒマラヤ密教叢書

●アーリア神話 レオン・ポリアコフ 著 アーリア主義研究会 翻訳 法政大学出版局

●アーリヤの男性結社―スティグ・ヴィカンデル論文集

 スティグ・ヴィカンデル 著、前田耕作 編集、 Stig Wikander 原著、檜枝陽一郎 訳、与那覇豊 訳、中村忠男 訳 言叢社 

●エッダ―古代北欧歌謡集 谷口幸男 翻訳 新潮社

●いちばんわかりやすい 北欧神話 杉原梨江子 監修 じっぴコンパクト新書

●The Secret History of the Reptilians:レプティリアンの秘史 著者: Scott Alan Roberts 

●北極の神秘主義 ジョスリン・ゴドウィン 著、松田和也 翻訳 工作舎

●The Secret History of the Reptilians Scott Alan Roberts 著

●失われたエイリアン「地底人」の謎 飛鳥昭雄、三神たける 著 ムー・スーパーミステリー・ブックス

●失われた地底人の魔法陣「ペンタゴン」の謎 飛鳥昭雄、三神たける 著 ムー・スーパーミステリー・ブックス

 

■参考サイト

●Wikipedia

●WIKIBOOKS

●Wikiwand

●Weblio辞書

●ニコニコ大百科

●ピクシブ百科事典

●コトバンク

●goo辞書 

●babelio

●Atlantipedia

●goodreads

●editionsethos

●トーラスマーケティング株式会社HP

●SF(空想科学物語)

●VISUP - RSSing.com