大洪水以前の超人たち
人類に高度な文明をもたらしたといわれる堕天使『グリゴリ』の正体は、『アダム』の三男『セト(セツ)』の子孫たちである――古き時代における一神教の識者たちの見解に基づき、(前回の記事『その2:グリゴリの正体』にて)ブログ主はこのような結論を出しました。
しかし、上記にはとても重要な補足があります。
それは『ノアの大洪水』以前の人類――特にアダム及びセトの系統の人々と、その血を引くネフィリムは「普通の人間ではなかった」ということです。
例えば、最初の人間であるアダムは930歳、その息子(三男)であるセトは912歳まで生きたとされています。
大洪水という災害に直面した『ノア』も、950歳という長寿でした。
神話の登場人物は、古い時代になるほど(あり得ないほど)長寿になる傾向〈注1〉があり、これは最古の神話であるメソポタミア神話などでも共通しています。
もちろん、これらの長い寿命については誇張だったり文学的な表現だったりする可能性も大いにありますが、ひょっとしたら神話時代の人間たちは、現代人の平均を軽く超える程度の寿命を有していた(それに加えて特殊な能力も備えていた?)『超人』だったのかもしれません。
しかし――
「我が霊が人のうちに永遠に留まることはないであろう。彼もまた肉なる者だ。彼の生涯は120年であろう」
※神が人間の寿命を(長くても)120年までに限定したということ。
――(旧約聖書の記述を信じるなら)神から不興を買った人間たちは、寿命をこのように制限されました。
これを以て、人間は現生人類になったといえるのではないでしょうか。
上記の話と関連するのかどうか、一神教系の文献を読むと、多神教の神々は『大洪水以前の人間』であるとも考えられていた〈注2〉ような気がします。
その代表的な例が、『その2』でも言及した『イシュタハル(Ishtahar)』――メソポタミアの女神『イシュタル(Ishtar)』がルーツと思われる女性――の逸話でしょう。
グリゴリの筆頭である『シェムハザ』から『神の秘密の名前』を教えてもらった彼女は、生身で天界の行き『プレアデスの7つの星』として輝くことができたとか。
※『神の秘密の名を知ること』は、生身の体で天界へ行く鍵となるそうです。
また、グリゴリについても大元のルーツを辿るとメソポタミアの神々との関連〈注3〉が推測できますが、グリゴリが(堕天使ではなく)セトの子孫であるという説を基準に考えるなら、メソポタミアの神々も、実は大洪水以前の人間だったという解釈も可能となります。
『聖アウグスティヌス(St. Augustine)』『ヨハネ・クリソストム(John Chrysostom)』『ジャン・カルヴァン(Jean Calvin)』などの人物は、セトの子孫たちは先に神と契約を結んでいたため『神の子ら』と呼ばれたという見解を述べていたそうです(★参考サイト:申命記⇒14:1/32:5)。
つまり、神との関係が深い者たちが特別な存在になったのかもしれません。
この仮定で話を進めるなら、大洪水以前の人類では――
𒅆神から恩恵を受けたセトの子孫(セト一族)
𒅆セト一族出身のグリゴリから知識や技術を与えらえたカインの子孫(カイン一族)の人間
𒅆グリゴリの血を引くネフィリム
――上記のような者たちが、多神教において神々とされるほどの影響力を持ったと、考えることもできるでしょう。
では、大洪水以前の人間たちにそれだけの力を与えた『神』とは、如何なる存在だったのでしょうか。
【注釈 1~4】
■注1 神話の登場人物は、古い時代になるほど(あり得ないほど)長寿になる傾向
各神話によって差はあるものの、神話時代の登場人物の寿命は概して現代人よりも長寿である。
例えば、シュメール王名表に書かれた大洪水以前の王たちの在位は以下の通りとなる。
②エリドゥ王:アラルンガル(在位36000年間)
③バド・ティビラ王:エン・メン・ル・アナ(在位:43200年間)
④バド・ティビラ王:エン・メン・ガル・アナ(在位28800年間)
⑤バド・ティビラ王:ドゥムジ(在位36000年間)
⑥ララク王:エン・シパド・ジッド・アナ(在位28800年間)
⑦シッパル王:エン・メン・ドゥル・アナ(在位21000年間)
現実的に考えるなら、これらの寿命の長さは、神話の時代に理想の世界を思い描いた古代人の創作だったり、あるいは複数の人物の人生を1つにまとめたりしただけの可能性もある。
■注2 多神教の神々は『大洪水以前の人間』であるとも考えられていた
上記については、ブログ主が一神教の文献を深読みした説である。
一神教(特にキリスト教)の一般的な(?)見解では、多神教の神々の多くは悪魔(=堕天使)とされている。
■注3 グリゴリについても大元のルーツを辿るとメソポタミアの神々との関連
前回の記事では、グリゴリの1柱である『アザゼル』とメソポタミアの火神『ギビル』との関連について述べたが、他にも以下の関連が考えられる。
𒅆シェムハザ ⇒ マルドゥク(またはマルドゥクと習合した『アサルルヒ/Asaruludu』)
シェムハザはグリゴリの筆頭であり、人間に魔法を教えたとされる。
一方、バビロニアの国家神であるマルドゥクは、グリゴリとルーツと思われる下級神グループ『イギギ』のリーダーでもあった。
また、マルドゥクは呪術の神でもある(マルドゥクと習合したアサルルヒも呪術の神)。
マルドゥクの父とされた水と知恵の神(こちらも呪術の神を兼ねる)『エンキ』も、シェムハザとの関連があるのかもしれない。
ペネムは人間に筆記術を教えたとされる。
一方、ナブーはマルドゥクの子とされた書記の神である。
人間に占星術を教えたとされるバラクエルは、その名前の意味が『神の雷光』であり、天候神との関連が推測できる。
一方、メソポタミアでは、稲妻を手にする天候神『アダド』が崇拝されていた。
この神は、シリア方面では『バアル・ハダド』という名称になった。
なお(メソポタミア神話において)「どの神がイギギとされたか」については余り明確になっていないが、大きな参考となる情報はある。
バビロニアの創世神話『エヌマ・エリシュ』では、マルドゥクに『50の名前』が付与されたが、それらにはマルドゥクとは関係がない神々の名称も含まれている。
マルドゥクがイギギのリーダーとされたことを考えると、それらの神々が、マルドゥクの配下となっていた(あるいはマルドゥクと習合した)イギギという可能性もあるだろう。
『マルドゥクの50の名前』は以下の通り。
①マルドク(マルドゥク) ②マルッカ ③マルトック ④バラシャクシュ ⑤ルガルディメルアンキア
⑥ナリルガルディメルアンキア ⑦アサルヒ(アサルルヒ) ⑧ナムティラク ⑨ナムル ⑩アサル
⑪アサルアリム ⑫アサルアリムヌンナ ⑬トゥトゥ(ナブーの別名) ⑭ジウキンナ ⑮ジク
⑯アガク ⑰トゥク ⑱シャズ ⑲ジシ ⑳スフリム
㉑スフグリム ㉒ザハリム ㉓ザハグリム ㉔エンビルル ㉕エパドゥン
㉖グガル ㉗ヘガル ㉘シルシル ㉙マラハ ㉚ギル
㉛ギルマ ㉜アギルマ ㉝ズルム ㉞ムンム ㉟ズルムンム
㊱ギシュヌムンアブ ㊲ルガルアブドゥブル ㊳パガルグェンナ ㊴ルガルドゥルマハ ㊵アラヌンナ
㊶ドゥムドゥク、㊷ルガルランナ ㊸ルガルウガ ㊹イルキング ㊺キンマ
㊻エシズクル ㊼ギビル ㊽アッドゥ(アダドの別名) ㊾アシャル ㊿ネビル(木星:ニビルとも呼ばれる)
■注4 『アダムの命名』には多分に呪術的な要素
天使より『エノク語』を教えてもらったという『ジョン・ディー(John Dee)』によると、エノク語は、『エデンの園』でアダムが全てのものに名前をつける時に用いられた言語だという。
※厳密に言えば、ディーと交信した天使がそう語っていたとされる。
このような話が考えられたのも、ユダヤの伝承における『アダムの命名』に特別な意味があったからだと思われる。
神の本質
ヤハウェの神名
画像は、フェニキア文字・アラム文字・ヘブライ文字で書かれた神『ヤハウェ』の名前(4文字)です。
最古の神名の表記はフェニキア文字であり、アラム文字でヘブライ語を記述するようになってからも、この4文字は(しばらくは?)フェニキア文字のままで書かれていたそうです。
つまり、最初に表記された文字が神聖な意味合いを持っていたことになるのでしょうが、ユダヤの伝承に基づくなら、最古の神名は楔形文字で書いてほしかったと思うのは、ブログ主だけでしょうか。
※ユダヤ人の祖『アブラハム』の出身はシュメールの都市『ウル』とされており、シュメールを含むメソポタミア文明では楔形文字が用いられました。
𒉡画像引用 Wikipedia
セフィロトの樹
画像はカバラの象徴図『セフィロトの樹(生命の樹)』です。
最上部の赤丸で囲った部分が『ケテル(王冠)』であり、そこに宿る神の名前が『エヘイヘ』とされています。
𒉡画像引用 Wikipedia
光輪
『光輪』として表現された『メー』は、王権の象徴でもありました。
その伝承は後の世界でも伝えられ、ゾロアスター教の神話では『クワルナフ(意味:栄光/光輪)』と呼ばれました。
クワルナフも王権の象徴であり、これを手に入れた者は大地を支配できるそうです。
𒉡画像引用 Wikipedia
アトランティス文明(イメージ図)
一神教の神は、『唯一の神』といわれながらも様々な名称で呼ばれています。
一般的には『ヤハウェ』という名前が知られていますが、西洋魔術では――
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𒅆Y(ヨッド)・H(ヘー)・V/W(ヴァウ)・H(ヘー)
※『ヤハウェ(YHVH/YHWH/JHVH)』のヘブライ語アルファベットの4文字『テトラグラマトン』を1つずつ詠唱した形式。
𒅆アドナイ(主)
𒅆エヘイエ(存在する)
𒅆エヘイエ・アシェル・エヘイエ(在りて在るもの)
𒅆エル(神)
𒅆エロヒム(神々)
𒅆ツァバオト/ツァバト(万軍の主)
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——など、旧約聖書で言及された各神名が唱えられました。
前章で述べたイシュタハルの逸話がある通り、神の名前には神秘的な力があると考えられたからです。
そして、このような神にこそ、大洪水以前の文明のことを探る秘密も隠されているのかもしれません。
一神教の神であるヤハウェには、『荒ぶる神』や『妬む神』など明らかに『唯一絶対』という神性からはほど遠い(多神教の神々と共通する)性格が見られます。
そうした性格の部分は(創世記の元ネタになった思われる)メソポタミア神話の神『エンリル』がルーツである可能性が高いですが、ヤハウェという神にある『絶対性』――根源的な法則(?)/あるいは根源的なエネルギー(?)――の要素は、『人格神ではない存在』が関係していたように思われます。
西洋魔術において、とりわけ重要視された神名は『エヘイエ』であり、これはカバラ(ユダヤ教の神秘主義)の象徴図『セフィロトの樹(生命の樹)』の最上部にあるセフィラ〈注5〉『ケテル(王冠)』と結びつけられています。
『エヘイエ』は『存在する』という意味ですが、実はこれに近い概念は、最古の文明とされるシュメールでも重要視されていました。
ユダヤ人の祖『アブラハム』がシュメールの都市『ウル』の出身とされたように、旧約聖書ではシュメールに対する畏敬の念が示唆されていますが、神性においてもシュメールの考え方が参考にされたようです。
シュメール神話では、『メー(メ)/楔形文字:𒈨/me』と呼ばれる神聖な概念が言及されました。
シュメール語の辞書によると、その意味は――
『essence(本質・根本的要素/精・エキス/実在)』『function(機能/職務/儀式)』
『divine power(神の力)』
『to be(~である)』
――などがあると考えられています。
『メー』とは『存在の本質(存在そのもの)』であり、(シュメールの)大衆的には『宇宙の真理』『天の道』『神の能力』とも解釈されていたとか。
旧約聖書の神は「我は在りて在るものなり(I am that I am)」と語ったそうですが、それに先行する存在がすでにシュメールにはあったのです。
メーの第1の意味が『essence(本質・根本的要素/精・エキス/実在)』であることを考えると、これはインド哲学でいうところの宇宙の根本原理(実在者ともいわれる)『ブラフマン』にも通じる概念なのかもしれません。
ヤハウェという神に付与されたユダヤ人を偏重する性格や、その他の人格神的な要素を取り除くと、存在の本質である『メー』こそが、神の核心部分になると思われます。
しかし、『メー』は物理的な実体がある『物』とも考えられました。
『メー』は特定の場所に保管されており、王冠のように被ったり、衣装のように纏ったり、玉座のように坐ったりすることができたとか。
あるいは、メーは『籠編み』のような技術であったり、『勝利』のような抽象的概念であったりもしました。
各種の情報から推測すると、『メー』とは宇宙的な法則に基づく『超常的な力(根源的なエネルギー?)』であり、そこから派生して『メー』の力が込められた物、『メー』の力によって生み出された各技術、『メー』の力を用いた各呪術(儀式)なども、共通して『メー』と呼ばれたのかもしれません。
『メー』には『神の力(能力)』という意味も含む通り、『メー』があるからこそ、メソポタミアの神々は(その神話において)「神と呼ばれるに相応しい存在になれた」と思われます。
逆に言えば、『メー』という根源的な神性の力――真の神ともいえる存在?――がなければ、彼らはどうなってしまうのでしょうか。
この点の考察が、一神教において「多神教の神々は(神ではなく)『堕天使=悪魔』、あるいは『人間』」として解釈された理由の1つになったのかもしれません。
※もちろん、上記については、ヤハウェ以外の神を認めてないことが最も大きな理由ですが。
聖書の神の本質が『宇宙的な法則(及びそれから発生した根源的なエネルギー)』であると仮定するなら、大洪水以前の世界の文明が如何なるものであったか、想像を広げることができます。
もちろん、グリゴリが伝えたという各種の知識や技術も重要ですが、上記の『メー』を考慮に入れることで、その文明を支えていたエネルギーも推測できるのです。
近代神智学によると、超古代文明の1つであるアトランティスでは『ヴリル(Vril)』と呼ばれるエネルギーが使用され、それを動力源とした航空戦艦も開発された〈注6〉そうです。
ヴリルの元ネタは色々と考えられますが、その大元を探っていくと、最終的にはシュメール神話の『メー』に辿り着くのかもしれません。
大洪水以前に存在していたと伝えられる文明が、現代文明を超えるレベルだったのかどうかはわかりませんが、少なくとも、現代にはない力や技術を使っていた可能性は考えられるでしょう。
シュメール神話にて伝えられる『メー』が大古の人類を超人的な種族にさせたり、それに基づく各種の技術が多大な文明の恩恵をもたらしたりしたとすれば、「古き世界は楽園だった」という伝承も、あながち間違ってはいない可能性があります。
しかし、各種の神話にて伝えられるところによると、その世界は最終的に破滅へと至りました。
【注釈 5~6】
■注5 セフィラ
オカルトの世界において、カバラ(クリスチャン・カバラ)の『セフィロトの樹(生命の樹)』はよく知られ、魔術結社『黄金の夜明け団』でもこの象徴図は重要視されている。
『生命の樹』を構成する各部位は『セフィラ(天球)/複数形:セフィロト』と呼ばれている。
これらに対応する身体の部位は以下の通り。
①ケテル(意味:王冠/頭頂部)
②コクマー(意味:知恵/左顔)
③ビナー(意味:理解/右顔)
④ケセド(意味:慈悲/左腕)
⑤ゲブラー(意味:峻厳/右腕)
⑥ティファレト(意味:美/胸)
⑦ネツァク(意味:勝利/左腿)
⑧ホド(意味:栄光/右腿)
⑨イェソド(意味;基礎/陰部)
⑩マルクト(意味:王国:足)
他に秘密のセフィラとして『ダアト(意味:知識/顔または喉)』があるとされている。
ただ、『生命の樹』の定義も所説あり、上記はその1つとなる。
また、『生命の樹』はその対となる『邪悪の樹(クリフォトの樹)』という体系とセットになっており、こちらのセフィラに当たる『クリファ(『殻』の意味)/複数形:クリフォト』にはそれぞれ「悪魔が住む」という。
■注6 航空戦艦も開発していた
近代神智学の創始者の1人である『ヘレナ・P・ブラヴァツキー』はインド哲学に傾倒したので、アトランティスにおける航空戦艦の話は、インド神話に登場する航空機『ヴィマーナ』が元ネタかもしれない。
神の処罰か、人の暴挙か
ギルガメシュとネフィリムの悪夢
『死海文書〈注9〉』の1つであるアラム語版『巨人の書』では、メソポタミア神話における英雄王『ギルガメシュ』もネフィリムの1人とされました。
メソポタミア神話において、ギルガメシュは「その体は3分の2が神、3分の1が人間」と言及された人物です。
故に、ギルガメシュのような神の血を引く英雄たちが、ネフィリム神話の元ネタになったと思われます。
『巨人の書』におけるギルガメシュは、強大な力と勇気を持ちながらも「天使との戦いには勝てなかった」と宣言したとか。
メソポタミア神話における偉大な英雄も、一神教の神的存在により滅ぼされる人物とされたのです。
『巨人の書』では以下のことが記されています。
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世界を滅ぼす大災害が起こる以前のこと。
ネフィリムは不思議な2つの夢を見ました。
最初の夢は、多くの名前が書かれた石板が水に沈むという内容でした。
水によりほとんどの名前は洗い流されて消えてしまいましたが、3つの名前だけが残っていました。
次の夢は、多くの木々や芽が生えていた庭が『水と火の大洪水(a deluge of water and fire)』によって壊されるという内容でした。
こちらの夢でも、3つの芽や木が残されていました。
※上記の3つの名前は、ノアの3人の息子たちを表わしています。
ネフィリムは夢の解釈についてエノクに相談したところ、エノクは、グリゴリやネフィリムが殺害されることを予言しました。
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一神教の神話では、この夢の通りに破滅の時が訪れたことになっています。
𒉡画像引用 Wikipedia
大天使 ミカエル
キリスト教の伝承によると、天使の筆頭であるミカエルは、かつては低い階級でしたが、『ルシファー』が神に反逆した際にこれを討伐し、天使の長になったとされています。
エノク書においては、ミカエルがグリゴリの処罰に関わったことが記されています。
𒉡画像引用 Wikipedia
古き人類を滅ぼしたと伝えられる大洪水
前章までは、神の本質に関連して大洪水以前の世界の文明(超古代文明?)のことも考察してみましたが、それを踏まえたうえで、話を本題(一神教の神話)に戻しましょう。
エノク書によると、人間の娘たちを娶ったグリゴリは、彼女たちに(巨人とも伝えられる)『ネフィリム』を生ませました。
ヤハウェが見ると、地上には人の悪がはびこり、その心が図る企てという企ては、終日、ひたすら悪であった。
ヤハウェは、地上に人を造ったことを悔やみ、 心に痛みを覚えた。
旧約聖書では、神が大洪水を引き起こす動機として上記のことが書かれています。
また、エノク書では以下のことが記されていました。
全ての快楽の虜となっている魂と『寝ずの番人(グリゴリ)』の子孫(ネフィリム)を滅ぼせ――彼らは人間に乱暴を働いたから。
一切の乱暴を地上から無くせ。
一切の悪行は消え失せ、正義と道理の木が生えいでよ。
そうすれば、全ての行いは祝福となり、正義と道理は喜びのうちに永遠に植えられるであろう。
エノク書を読むと、グリゴリやネフィリムの方に神の憎悪が(より強く)向けられているように見えます。
『悪』の原因が堕天使に起因するなら、人間まで滅ぼされてしまうのは『とばっちり』といえるでしょう。
※なお『神に助けられるべき人間』とは、あくまで神の意に沿った者たちだけです。
しかし(『その2』でも述べた通り)ネフィリムの親であるグリゴリが、実はセト(アダムの三男)の子孫であるなら、神はあくまで『人間の悪と罪』を問題にしていたことになります。
ただ、この論理――堕天使と言われる者たちは実は人間だったという説――を認めるなら、別の可能性も考えることができます。
グリゴリやネフィリムが滅ぼされるに当たり、複数の大天使たちがそれに関与したことになっています。
そうした大天使たち――あるいは神すらも――実は人間だったのではないでしょうか。
この場合の人間とは、善なる存在とされた『セト一族』の指導者や幹部達を指しています。
ここで1つ指摘しておきたいことがあります。
それは、古代の文献に記された『神』や『神のお告げ』という語については、特に注意深く読む必要があるということです。
如何なる『神のお告げ』も、人間の口や筆を通して示されたことは、まず間違いないでしょう。
ということは、『神』という存在も結局は人間ではないか――皆様はこのように考えたことはありませんか?
その実態は、自身の体を『器』として神霊を媒介する神官(あるいは巫女)の『無意識』ともいえますし、その神官が所属する宗教団体の方針・意向という解釈〈注7〉もできます。
一神教系の文献はプロパガンダ色が強い傾向があるので、そこで語られる『神』の正体は(少なくともその人格的な部分は)後者である可能性が高いと思われます。
前章の話を参考にするなら『メー』については『唯一絶対の神』と呼ばれるに相応しい存在といえるでしょう。
しかし、それに人間の都合で作られた人格や思想を付与するのは余計なことです。
上記のことも踏まえたうえで一神教の神話を考えてみましょう。
もし、セト一族が『メー(存在の本質)/在りて在るもの?』に相当する存在を神として崇拝していたとすれば、大洪水以前の世界における『神の意志』とは、実質的には『アダム及びセト一族の各指導者たちの意志』だったのかもしれません。
このように解釈するなら、『大洪水以前の世界の滅亡』は、実際には人間同士の権力闘争により引き起こされたことだと考えることもできるのです。
そうなると、この争いの背景には「純血のセト一族以外は滅びるべし」という一神教勢力側の人種差別的な意識も要因の1つだった可能性があります。
では、この『戦争』は如何なる展開を見せたのでしょうか。
エノク書によると、まずは大天使たちが動きました。
この大天使とは『ミカエル』『ガブリエル』『ラファエル』という一神教でも有名な者たちであり、彼らがグリゴリの捕縛やネフィリムに対する策略のために動いたのです。
同書には、以下のことが記されています。
ラファエルはアザゼルを捕え、ダドエル(地名)の荒野にて掘られた穴に封じました。
ガブリエルは、父無し子・不義の子・姦通の子・グリゴリの子(ネフィリム)などを互いに争わせ、自滅に追い込みました(天使による『離間計』といえます)。
ミカエルは、シェムハザとその仲間たちを捕え、『最後の審判』の時が来るまで大地の丘の下に封印しました。
その後、旧世界は大災害に見舞われます。
以下は旧約聖書の記述です。
その日に大いなる混沌の海の源が全て割け、天の水門が開け放たれた。
(中略)
大洪水は40日、地上を襲った。
(中略)
こうしてヤハウェは、大地の面にいた全ての生き物を、人から動物まで、這うものまで、空の烏まで、拭い去 った。
それらは地から拭い去られ、ノア及び彼と共に箱船にいたものだけが残った。
大洪水はあらゆる生物の命を奪い、世界を一掃したそうです。そこには当然、ネフィリムも含まれていたことでしょう。
『神の意志』や『天使の活動』が、実際には(ノアを含めた)セト一族の指導者たちを指しているとしたら、一部の人間たちが自分たち以外の者たちを全て滅ぼしたという『史上空前の暴挙(ジェノサイド)』を行ったことになります。
※ヒトラー・スターリン・毛沢東でもこれには遥かに及びません。
上記について、ゾロアスター教の神話では逆の視点で言及されており、旧世界は『悪神の攻撃』で滅亡したことになっています。
※つまり、ヤハウェや大天使たちが『悪神』に相当することになります。
この破壊と虐殺にどれだけの正当性があるのかは、各人の考え方によって分かれるでしょうが、滅ぼされた方も少なからず抵抗したことが、マニ教版『巨人の書〈注8〉』に記されていました。
次回では、主に上記の文献を参考にして、旧世界の滅亡についてさらに深掘りしたいと思います。
【注釈 7~9】
■注7 自身の体を『器』 ~ その神官が所属する宗教団体の方針・意向という解釈
上記の見解は、神の存在そのものを否定するわけではない。
ただ、宗教の教えを『神のお告げ(に由来する)』と解釈するか、あるいは『(実際は神ではなく)宗教家の思想』と解釈するかは、個々人の宗教観・世界観によって異なる――とブログ主は主張している。
■注8 巨人の書
『巨人の書』は、(エノク書と同じく)創世記の物語を膨らませたユダヤ教の文献(一般的には偽典扱い)であり、紀元前2世紀以前に作成されたと考えられている。
この文献は「なぜ大洪水以前の世界において邪悪な存在が蔓延ったのか」ということを述べる物語であり、それにより、神が大洪水を引き起こしたことを正当化する理由付けもされている。
『巨人の書』は、以前はマニ教の文献として知られていた。
しかし、死海文書の発見により、マニ教版『巨人の書』は(死海文書の中にある)アラム語版『巨人の書』に由来していることが判明した。
■注9 死海文書
死海文書(あるいは死海写本)は、1947年以降に死海の北西(ヨルダン川西岸地区)にあるクムラン洞窟などで発見された972の写本群の総称であり、『20世紀最大の考古学的発見』ともいわれている。
主にヘブライ語聖書(旧約聖書)と聖書関連の文書からなっている。
死海文書を記したグループ『クムラン教団』については、伝統的にエッセネ派と同定する意見が主流であるが、エルサレムのサドカイ派の祭司たちが書いた、あるいは未知のユダヤ教内グループによって書かれたとする意見もある。
参考・引用
■参考文献
●旧約聖書Ⅰ創世記 月本昭男 訳 岩波書店
●聖書外典偽典4(旧約偽典Ⅱ) 村岡崇光 訳(日本聖書学研究所編) 教文館
●The Book of Giants(The Watchers, Nephilim, and The Book of Enoch) Joseph Lumpkin 著
●『巨人の書』の再検討 須永梅尾 著
●天使の世界 マルコム・ゴドウィン 著/大滝啓裕 訳 青土社
●天使辞典 グスタス・デイヴィッドスン 著/吉永進 監訳 創元社
●DAMKIANNA SHALL NOT BRING BACK HER BURDEN IN THE FUTURE! TAKAYOSHI・OSHIMA 著
●SUMERIAN LEXICON JOHN ALAN HALLORAN Logogram Publishing
●古代メソポタミア語文法
●古代オリエント集(筑摩世界文學体系1) 筑摩書房
●古代メソポタミアの神々 集英社
●ソロモンの大いなる鍵 無極庵
S・L・マグレガー・メイザース 編集、松田アフラ、太宰尚 訳 アレクサンドリア木星王 監修 魔女の家BOOKS
●実践魔術講座 秋端勉 著 碩文社
●マハーバーラタ C・ラージャーゴーパーラーチャリ・奈良毅・田中嫺玉 訳
●マハーバーラタ 山際素男 編著 三一書房
●カナンの呪い ユースタス・マリンズ 著(天童竺丸 訳) 成甲書房
●創作資料(仮) あわゆきこあめ 著
■参考サイト
●Wikipedia
●WIKIBOOKS
●Wikiwand
●Weblio辞書
●ニコニコ大百科
●ピクシブ百科事典
●コトバンク
●goo辞書
●聖書入門.com
●神様コレクション@wiki
●幻想世界神話辞典
●Angelarium
●The-demonic-paradise.fandom.com
●幻想動物の事典
●chabad.org
●A Hebrew - English Bible
●カラパイア
●日本の黒い霧(国際NGOだいわピュアラブセーフティネット)
●古今の秘密の教え フリーメイソンリーの象徴主義
●ビッグカンパニーHP
●The Demonic Paradise Wiki
●創造ログ
●古代メソポタミアと周辺の神々、神話生物について
●ジョン・ディーの部屋
●World History Encyclopedia
●神魔精妖名辞典
●Angelarium
●湖畔の生活 言語探求日記
●まなべあきらの聖書メッセージ
●Rinto
●ことばさあち
●Life-Plorer
●Hiroのオカルト図書館館
●株式会社IMS HP