イルミナティカードと『友愛結社』
Fraternal Orders(友愛結社)
●画像引用 STEVE JACKSON GAMES
フリーメイソンリーのシンボル
フリーメイソンは16世紀後半から17世紀初頭にできたといわれる友愛結社です。
厳密に言うと、『フリーメイソン』は各個人会員のことを指しており、団体名としては『フリーメイソンリー(Freemasonry)※英語名』になるそうです。
起源は石工職人のギルドであり、シンボルマークの1つである『定規とコンパス』は、その名残だといわれています。
フリーメイソンの伝説上の始祖は、ソロモン王の神殿の建設を指導した『ヒラム・アビフ』という親方とされているそうです。
このモデルとなった人物は、旧約聖書に登場する『2人のヒラム』とされています。
1人がソロモン王と友好関係にあったティルス(フェニキア人の都市)の王ヒラムであり、もう1人が同じくティルスから派遣されてきた青銅職人のヒラムという人物です。
前者のヒラム(王)はソロモン王の要請に応じて大量のレバノン杉を送り、後者のヒラム(職人)は、神殿建設の際に青銅工芸の技術によって貢献したとか。
神殿建設に貢献した両者が同じヒラムという名前なので、彼らがヒラム・アビブの伝説になったそうです。
●画像引用 Wikipedia
続いて、『ネクロノミコン』以外のクトゥルフ神話関連と思われるイルミナティカードを見てみましょう。
左の画像にある『Fraternal Orders(友愛結社または友愛組合)』のイルミナティカードに描かれた人物は、奇妙な帽子を被り、異形な金色の像を手にしています。
帽子の左右には牛の角があり、中央にはイルミナティの代名詞ともいえる『プロヴィデンスの目』が描かれています。
金の像はデフォルメ化されていますが、前回の記事で紹介したクトゥルフ神話の邪神『クトゥルフ』を連想させる形をしています。
このカードのタイトルにもなっている『Fraternal Orders(友愛結社)』は現実社会において数多く存在しますが、『友愛結社』と聞いてまず思い浮かぶのが、『フリーメイソン(フリーメイソンリー)』だと思います。
『プロヴィデンスの目』はフリーメイソンのシンボルマークの1つでもありますので、カードに描かれた人物はこの友愛結社の人物であることを臭わせています。
また、フリーメイソンとイルミナティは密接な関係があり、陰謀論についてある程度知識がある方は、「イルミナティはフリーメイソン内の上位組織〈注1〉」というイメージを抱いているのではないでしょうか。
両者は似たような思想も持っており、少なくとも何らかの関係はありそうです。
描かれた絵の内容から、カードの友愛結社にオカルト要素があることは間違いないでしょう。
このカードは一体何を意味するのでしょうか。
You think they look silly with their hats and their motor scooters. If you know what those hats really meant, you'd never laugh at anything ever again...
「あなたには、彼らの帽子とスクーターが馬鹿らしく見えると思います。もし、それらの本当の意味を知っていれば、あなたは2度と笑えないでしょう...…」
絵について言及されたカードの文は上記の通りです。
特に引っかかるのは『motor scooters』という単語です。
このカードのどこにも『乗り物のスクーター』は描かれていないからです。
調べてみると、『motor scooter』にはスラング的な意味〈注2〉もあり、『マザーファッカー(motherfucker)』という意味も暗示しているそうです。
文字通りには『母親と近親相姦を行う人間のこと』を意味し、それから派生して『(母親を犯してしまう程の)ゲス野郎』を表す侮蔑用語です。
おそらくは金色の像が、『(モーター)スクーター=マザーファッカー』の如き『冒涜的なもの〈注3〉』であることを指していると思われます。
仮に金の像の正体が『悪魔(=神を冒涜する存在)』だというなら、このカードの人物は『悪魔崇拝者』だと解釈するだけの話なのですが、そうだとすれば、かなり回りくどい表現といえます。
敢えてクトゥルフ神話的な要素を取り入れたということは、我々が思うような悪魔崇拝とは異なる部分もあるということなのでしょうか。
あるいは、その悪魔にはクトゥルフ的な性質があることを暗示しているのでしょうか。
端的にまとめれば、このイルミナティカードは『友愛』を掲げるオカルト結社が、『クトゥルフ的な神』を崇拝していることを表しているように思われます。
そしてその正体を知ったら笑えなくなるということは、真相を知った者には『名状しがたい恐怖』が待ち受けているのかもしれません。
【注釈 1~3】
■注1 イルミナティはフリーメイソン内の上位組織
2015年3月21日の毎日新聞の記事によると、歴史家のラインハルト・マルクナー氏は、「もう現存しない組織ですが、当時はイルミナティで一定の地位を築こうと思えば、まずフリーメイソンに属して徳を積むことが必要でした」——とイルミナティについて語った。
これが事実だとすれば、イルミナティとフリーメイソンにはかなり深い繋がりがあるといえる。
一方で、フリーメイソン側としては、「その団体とは無関係(シュトラスナー博士)」という見解を出している。
仮に事実だったとしても、フリーメイソン側としては認めないところだろう。
■注2 『motor scooter』にはスラング的な意味
『motor scooter』が『マザーファッカー』という意味も暗示するようになったのは、『ルディ・レイ・ムーア(Rudy Ray Moore:アメリカのコメディアン・歌手・俳優)』が主演した映画『ドレマイト(Dolemite)』の続編である『ヒューマン・トルネード(The Human Tornado)』のタイトルソングにおいて、そういう歌詞があったからだとか。
※ただし、俗語としての『motor scooter』は上記の映画以前から使われており、映画によって知られるようになった可能性もある。この辺りの詳細は未確認。
タイトルソングの歌手はルディ・レイ・ムーアであり、自身が演じた主人公『ドレマイト(ワルぶったポン引きのキャラクター)』になりきって歌っている。
使用例として、『悪いマザーファッカー』の代わりに『悪い(モーター)スクーター』という言い方をするのは、侮辱的な意味ではなく、お世辞や敬意を表しているらしい。
『Human Tornado』の歌詞は以下の通りであり、『motor scooter』の部分は太字にした。
●Rudy Ray Moore - Human Tornado
He's a Human Tornado!
Mules'es kicked me an didn't bruise my hide
Rattlesnakes'es bit me they just crawled off an died
I handcuffed*, lightnin' and split the raging sea!
I don't want no dilapidated seep sappin (?) pigeon-toed'ed, cross eyed'ed, bow-legged sonnuvaguns a messin' with me
I've been known to rise up, but I'll cool down later..
I'm the bad motor scooter, I'm the Human Tornad'a!
I picked up the rock and killed the giant Goliath!
Beat Nero's ass for setting Rome on fire
I've got lions, elephants roosting in the trees
I don't want no dilapidated see-sappin(?), pigeon-toed'ed, cross-eyed'ed, bow-legged sonnuvaguns a messin' with me
I've been known to rise up
But I'll cool down later
I'm the bad motor scooter
I'm the Human Tornado!
★歌を聞きたい方はこちらへ ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=Ra5BKklfGzk
■注3 冒涜的なもの
ラヴクラフト作品では『冒涜的』という表現がよく使われる。
何を以って冒涜的か――ということについては、どうやらキリスト教の神を冒涜しているという意味らしい。
人類誕生以前に人類以上の生命体がこの宇宙に存在していたことは、キリスト教など一神教的な価値観からすれば『冒涜的』になるからのようだ。
イルミナティカードと『クトゥルフの下僕』
Servants of Cthulhu
(クトゥルフの下僕)
●画像引用 STEVE JACKSON GAMES
アルスカリ
●画像引用 Wikipedia
『Fraternal Orders(友愛結社)』のイルミナティカードよりも、はっきりと『クトゥルフに仕える者たち』を示しているのが、左の画像にある『Servants of Cthulhu(クトゥルフの下僕)』のカーです。
こちらはカード内容について謎解きをするまでもなく、タイトルそのままって感じですね。
ただ、カードに記された文章は、ゲームに関すること(カードの効果)しか書かれておらず、特に意味深な内容はありません。
気になる点と言えば、カードに描かれた絵が明らかにクトゥルフではないことです。
一見すると、単眼生物の髑髏のようですが、これは一体を表しているのでしょうか。
『クトゥルフ神話』と『単眼』で検索すると、2つの関連キャラクターがヒットします。
それが『シアエガ(Cyaegha)』と『アルスカリ(Alskali)』です。
シアエガは『旧支配者』であり、「巨大な緑の単眼で、無数の長い触手に取り巻かれている」と描写されることが多いとか。しかもこれは仮の姿であり、本来のシアエガの姿は不定形なタールのようだとされています。
このような姿では、カードに描かれたような髑髏との関連は薄そうですが、触手を持つという性質はクトゥルフと共通しています。この点に何か意味があるのでしょうか。
アルスカリは、ギリシア神話に登場する『キュクロープス(サイクロプス)』のような単眼の巨人であり、『ナイアーラトテップ (Nyarlathotep)〈注4〉』という『外なる神』を崇拝する種族だとか。
アルスカリの特徴は、約3mほどの筋肉質な巨体、毛のない暗い灰色の皮膚、そして催眠作用のある単眼です。
シアエガと比べれば、アルスカリの方がまだ関連があり得そうですが、『カードの髑髏』と『アルスカリの顔の骨格』は似てないですね。
クトゥルフ神話との繋がりという点において、カードに描かれた異形の髑髏には、不気味さを演出する以上の意味はないのもしれません。
とはいえ、『クトゥルフに仕える者たち』を表すカードがわざわざ2つも造られたのには、何か理由があるのでしょうか。
少なくとも、イルミナティカードは、イルミナティという秘密結社とクトゥルフ神話に何等かの関連があることを暗示しているように見えます。
その秘密を解き明かすには、再び問題の書物――ネクロノミコンを調べる必要がありそうです。
というわけで、次回は『現実のネクロノコン(的書物)』ではないかと思われる本について考察したいと思います。
【注釈 4】
■注4 ナイアーラトテップ (Nyarlathotep)
ナイアーラトテップ (Nyarlathotep) は、クトゥルフ神話などに登場する架空の神。
日本語では他にナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ、ニャルラトテップなどとも表記される。
旧支配者の中で唯一封印を免れ、他の旧支配者と違い自ら人間と接触するなど、クトゥルフ神話において特異な地位を占める神性(神格)であり、クトゥルフ神話におけるトリックスターとも言える。
参考・引用
■参考文献
●ILLUMINATI New World Order STEVE JACKSON GAMES
●イルミナティカードの悪魔の予言:恐怖の陰謀 天野翔一郎 著 リアル出版
●ラヴクラフト全集 H・P・ラヴクラフト 著 創元推理文庫
●真ク・リトル・リトル神話体系 H・P・ラヴクラフト他 著 国書刊行会
■参考サイト
●Necronomicon by Simon(http://lovecraft.ru/texts/necro/simon_eng/index.html)
●Wikipedia
●ニコニコ大百科
●ピクシブ百科事典
●コトバンク
●Urban Dictionary
●オカルト情報館
●族長の初夏
●Brawl of Cthulhu
●やた管ブログ
●毎日新聞(配信版)