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インド神話の核兵器(?) その3

ブラフマシールシャーストラ

ブラフマシールシャーストラによる対峙

 アシュヴァッターマン(右)とアルジュナ(左側から2番目?)が放とうとしたブラフマシールシャーストラは、2人の聖仙(リシ)により止められました。

 もしこの超兵器が激突したら、周囲は大惨事になっていたことでしょう。

 

 ブラフマシールシャーストラは炸裂しませんでしが、数々の大量破壊兵器が投入された『クルクシェートラの戦い』は、アルジュナを含めたパーンダヴァの5人兄弟、ヴィシュヌの化身とされるクリシュナ、そしてアシュヴァッターマンを除いた戦士たちが全て死に絶えるという悲惨な結果で終戦しました。

 マハーバーラタの終盤において、この戦争は「大地の重荷を軽減するために行われたこと」――つまり神の人口削減計画だったことが明かされます。

 

●画像引用 Wikipedia

 『インド神話の核兵器(?)』シリーズの第3回目は、ブラフマーストラの上位互換――『ブラフマシールシャーストラ(サンスクリット語:ब्रह्मशीर्षास्त्र/brahmaśĪrṣāstra)』から説明したいと思います。

 

 前々回の記事でも簡単に触れましたが、このブラフマシールシャーストラとは、直訳で『ブラフマーの頭部の矢』という意味になります。

 この武器は神々の殺害すら可能だといわれ、ブラフマーストラより4倍強力だと考えられました。

   叙事詩『マハーバーラタ』では、この武器は創造神ブラフマーにある4つの頭部の先端として現われるとされています。

※図像で描かれるブラフマーには4つの顔(頭部)があります。
  

 マハーバーラタの中で描かれた時代では、パラシュラーマビーシュマドローナアシュヴァッターマン、そしてアルジュナなどの英雄たちが、ブラフマシールシャーストラを呪文(マントラ)で呼び出す知識を持っていました。

  このアストラは、『草の葉』のようなものでも魔術的な『触媒』となり、神聖なマントラの詠唱によって呼び出すことが可能とのことです。

 

  マハーバーラタの描写では、ブラフマシールシャーストラを呼び出すと、炎や雷が発生。それに加えて何千もの流星が落ち、その場が轟音や大地の震動で満ちるようになると説明されています。

 また、ブラフマシールシャーストラが特定の場所を攻撃すると、その地域を完全に破壊することはもちろん、それから12年間は雨が降らなくなり、金属や土などの全てが『毒』で覆われることになるそうです。

 この『毒』というのは、放射能のことを指しているのでしょうか。

 

   アシュヴァッターマンとアルジュナが対峙した時、互いがブラフマシールシャーストラを使おうとしましたが、聖仙(リシ)であるナーラダヴィヤーサにより止められました。

 上記2人の英雄も参加した『クルクシェートラの戦い』では、他の大量破壊戦争が数多く使用されたことに対し、ブラフマシールシャーストラに関しては、聖仙たちがわざわざ制止に入るほど、その破壊力が危惧されたのです。


獣王の炎刃 パーシュパターストラ

シヴァ(右 )とアルジュナ(左)

 マハーバーラタの英雄アルジュナが、パシュパターストラをシヴァより拝受する経緯は以下のようになります。

 

 神々の王であるインドラの勧めに従い、アルジュナはシヴァから武器をもらうためにヒマラヤ山の北にある深い森に入りました。

 シヴァに気に入られるため、アルジュナがそこで過酷な苦行に励んでいると、狩人の姿をしたシヴァが彼に会いに来ました。

 その時、ムーカというアスラが猪に化け、アルジュナを攻撃しようとしていました。

 それを見たシヴァは直ちに猪を射ようとしましたが、アルジュナも矢をつがえていました。

 シヴァは「待て、あいつは俺が先に見つけたのだ」と止めようとしましたが、アルジュナはその声を聞きませんでした。

 結果として2本の矢が刺さり、猪は倒れましたが、アルジュナは「こちらが先に目を付けた獲物に手を出すとは命知らずな。事と次第によってはお前の命も頂戴するぞ」と因縁を付けます。

 アルジュナは、手にしていた無敵の弓『ガーンディーヴァ』があれば恐ろしいものなどないと傲慢になっていました。

 一方、狩人に扮したシヴァも自分が先に仕留めたと主張し、2人は争い始めました。

 アルジュナはシヴァに矢の雨を降らせましたが、矢が尽きるまで全て受け止められてしまいます。

 続いて彼は剣を抜きましたが、その刃は砕かれてしまいました。

 武器が無くなったので、アルジュナは岩や大木を引き抜いて放り投げましたが、それも苦も無く受け止められました。

 最後にアルジュナは格闘戦を挑みましたが、結局シヴァに胴体を締め上げられて気を失ってしまいました。

 

 目が覚めた後、アルジュナは自身の敗北を認め、跪いて狩人を拝みました。

 ここでようやくシヴァは正体を現し、「望みの武器を授けてやろう」と言うのです。

 この時に至り、シヴァはようやくアルジュナを認めたことになるのでしょうが、ブログ主的には「アルジュナは性格が悪そう」と思いました。

 インドでも、アルジュナよりライバルのカルナの方に人気があるのがわかるような気がしました。

 

●画像引用 Wikipedia

■アスラの城塞にパーシュパターストラに放つシヴァ(左)

 

●画像引用 MantraShakti.in

http://mantrashakti.in/pashupatastra-stotra-shiva/

 インド神話において、『至高の三大天界兵器』の1つとされているのが、『パーシュパターストラ(サンスクリット語:पाशुपतास्त्र/pāśupatāstra)』です。

 他2つは『ブラフマーンダーストラ(サンスクリット語:ब्रह्माण्डास्त्र/brahmāṇḍāstra)』と『ヴァイシュナヴァーストラ(サンスクリット語:वैष्णवास्त्र/vaiṣṇavāstra)』とされています。

 

 パーシュパターストラは、ヒンドゥー教の主神の1柱である破壊神シヴァ、その妻である戦いの女神カーリー、そして大女神アディ・パラシャクティが主な所有者とされています。

 

 ブラフマーストラに続き、こちらも中二病的に『獣王の炎刃』と勝手に当て字をしてみましたが、名前の直訳は『獣の主の矢』となります。

 『パシュパティ(サンスクリット語:पशुपति/paśupati)』は『獣の主』という意味であり、シヴァの別名の1つです。

 これを形容詞化した単語『パーシュパタ(サンスクリット語:पाशुपत/pāśupata|意味:パシュパティに関する)』に『矢』を意味する『アストラ(サンスクリット語:अस्त्र/astra)』を合わせた複合語が『パーシュパターストラ』ということになります。

 

 パーシュパターストラは少数の敵や小規模の軍隊に使用されるような兵器ではありません。

 この兵器は城塞や都市などを一撃で破壊し、その中にいる全生物を殺害することが可能だからです。

 そんなパーシュパターストラの破壊力は、戦士たちには魅力的に思われていたようです。

 『三一書房(山際素男 編著)』のマハーバーラタによると、シヴァに気に入られたアルジュナが「望みの武器を授けてやろう」と言われた際、彼は「ブラフマシラス、またの名パーシュパターストラをいただきたい」と申し出ました。

 ブラフマシラスとは、ブラフマシールシャーストラの別名です(単語の意味もほぼ同じです)。

 このセリフからわかる通り、パーシュパターストラとブラフマシールシャーストラは同一の兵器である可能性が高いです。

 ただシヴァの別名に因んでいるところを見ると、パーシュパターストラは『ブラフマシールシャーストラと同系の兵器』がシヴァ用にカスタマイズされたものであり、神話において、これらの両兵器は区別されているのかもしれません。

 

 マハーバーラタの記述によると、パーシュパターストラはブラフマー、ナーラーヤナ(ヴィシュヌの別名)インドラアグニヴァルナといった他の神々のアストラよりも優れており、宇宙における全ての武器を無効化することが可能とのこと。

 瞬きする半分の時間で全宇宙を焼き尽くすことも可能だといわれたパーシュパターストラは、当然神々さえも殺害することができました。

 そのような兵器なので、シヴァはこれをアルジュナに与える際には、「正当な理由もなく弱者に対して使用してはならず、もしそんなことをすれば全宇宙を破壊しかねないぞ」と警告しました。

 

 そんな兵器あげるなよ……とシヴァに『ツッコミ』を入れたくなる読者もいるでしょうが、インド神話の神々は割と気軽に破壊兵器を信者に与えています。

 故に軍事バランスが大変なことになるのですが、そのことについては、このシリーズ最終回の記事で考察したい思います。

 

 『その1』の記事でも書きましたが、インド神話の超兵器は科学的な兵器というよりは『魔術兵器』という面が強いです。

 パーシュパターストラも例外ではなく、「精神により、目により、言葉(マントラ)により、そして弓により放たれる」——シヴァはこのようにアルジュナに言っています。

 

 上記の条件に挙げられた『目』とは、単なる視覚的な意味ではなく、ヨーガなどの修行によって鍛えられた『第三の目』を指しているかもしれません。

 高度な精神集中と鍛え上げれらた『第三の目』によって遠く離れた攻撃対象の『リモートビューイング(遠隔透視)』を行い、発動のマントラと共に(魔法の)弓で必殺のアストラ(矢)を放つ――インド神話で描かれたブラフマーストラやパーシュパターストラなどのアストラ兵器とは、このように行使するものではないでしょうか。

 

 パーシュパーターストラの威力が存分に発揮された神話としては、3人のアスラ王が居を構えた城塞都市『トリプラ』の物語が有名です。

 シヴァはパーシュパターストラの一矢を放ち、空中に浮遊していた城塞都市を破壊しました。

 『シヴァ・プラーナ』において詳細に描かれたこの物語は、(英訳からの重訳ですが)邦訳ができているため、別の機会にご紹介したいと思います。

 

 では、今回の記事はこれまでです。

 次回はその他のアストラ兵器についてご紹介したいと思います。


参考・引用

■参考文献

●マハーバーラタ C・ラージャーゴーパーラーチャリ・奈良毅・田中嫺玉 訳 

●マハーバーラタ 山際素男 編著 三一書房

●ラーマーヤナ 河田清史 著 第三文明者

●新訳ラーマーヤナ ヴァールミーキ 著 中村了昭 訳 東洋文庫

●SIVA PURANA The ancient book of Siva RAMESH MENON 著  

●ヒンドゥーの神々 立川武蔵・石黒淳・菱田邦男・島岩 共著 せりか書房

●梵和大辞典  荻原雲来 編纂 講談社

●A Sanskrit English Dictionary M. Monier Williams 著 MOTILAL BANARSIDASS PUBLISHERS PVT LTD

 

■参考サイト

●Wikipedia

●ピクシブ百科事典

●コトバンク

●weblio辞書

●インド思想史略説

●西洋ファンタジー用語ナナメ読み辞典

●MantraShakti.in